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  • 執筆者の写真ブレイブハートNAGOYA

0004 対応義務者の救命処置トレーニングの指導者

更新日:2019年12月4日

前回は、対応義務者の救命処置トレーニングに関する法制度を取り上げました。

米国と異なり、当該職種の救命処置トレーニングが法定化されていないが故にスキルもまちまち。対応義務者向けに設計された講習もなく、それに対応した指導者もいないというものでした。


記事0003:対応義務者の救命処置トレーニングと法制度 


非医療従事者向け講習の指導といえば応急手当普及員


医療従事者に対する救命法講習を最も開催しているであろう立場が、総務省消防庁の規定に基づき運用される「応急手当普及員」。普通救命講習や救命入門コースの指導にあたる立場です。


企業の従業員が資格を取得して他の従業員の指導にあたるケースや、地域の消防団員が資格を取得して地域住民の指導にあたるケースなどがありますが、自治体によってその運用形態はバラバラ。

名古屋市のように応急手当普及員単独での講習開催を認めているケースもあれば、消防職員立会のもとでしか指導に従事できないケース、消防団員以外の普及員養成講習受講を認めていないケースなどがあります。


応急手当の普及に対して意欲がある人が自由に活動できないのはたいへんもったいとも思いますが、普及員単独での講習開催を認めている名古屋市でも資格者へのサポートやアップデートが行き届いていない点をかんがみると、やむを得ない部分も大きいのではないでしょうか。(名古屋市の場合、以前は普及員資格の更新のための専用講習がありましたが、今では消防局開催の救命講習の見学のみで資格更新できるようになってしまいました)



応急手当普及員が行う救命講習の対象


応急手当普及員の目的等は、総務省消防庁の文書「応急手当の普及啓発活動の推進に関する実施要綱」に記載されています。


●応急手当の普及啓発活動を推進するにあたっては、消防長は、住民に対する応急手当の普及講習の開催、指導者の派遣等を行うとともに、デパート、旅館、ホテル、駅舎等多数の住民の出入りする事業所(以下「事業所」という。)又は自主防災組織その他の消防防災に関する組織(以下「防災組織等」という。)の要請に応じて、主として当該事業所の従業員又は防災組織等の構成員に対して行う応急手当の普及指導に従事する指導者の養成について配慮するものとする。


●応急手当普及員は、主として事業所又は防災組織等において当該事業所の従業員又は防災組織等の構成員に対して行う普通救命講習の指導に従事するものとする。



これを読むと応急手当普及員は


◆デパート、旅館、ホテル、駅舎等多数の住民の出入りする事業所で、従業員に対し応急手当の指導にあたる人


◆自主防災組織や消防防災組織で、応急手当の指導にあたる人(消防団員など)


が対象であることがわかります。


前者に対応義務者がどこまで含まれるか、具体的な基準が定められているわけではありませんが、「多数の住民が出入りする」という部分がひとつのポイントでしょう。

商業施設や宿泊施設はもちろんこれに該当しますが、保育園や介護施設などはここに含めることを想定しているかは判断できかねます。


また、看護師等の医療従事者が応急手当普及員講習を受講しているのを見かけることもありますが、当該講習はあくまで市民向けの応急手当を習う場所。そもそも医療従事者は対象外です。


「心肺蘇生の指導法を学べる場所がないので」という医療従事者の受講理由を以前聞いたことがありますが、講習で習った市民向け心肺蘇生などをそのままクリニック等の職場で展開するのでしょうか?

日本版救急蘇生ガイドラインでは、医療従事者が行う心肺蘇生について、バッグマスクを用いた人工呼吸を必須とされており、クリニックでの心停止患者発生時に人工呼吸を省略した心肺蘇生しか行わなかったことが患者死亡の要因になったとして、6000万円を超える賠償金支払いが命じられた例もあるだけに、対象ではない人を受講させ、不相応なスキルを習得させることは、講習提供側にも大きな責任があるといえるのではないでしょうか。


判例

適切な心肺蘇生を行わなかった過失を認めた事例

平成28年12月26日判決言渡

平成25年(ワ)第1219号 損害賠償請求事件

(リンク先:坂野法律事務所・医療過誤事例報告)




応急手当普及員講習の設計


講習を開催する自治体(消防機関)によって多少の違いはあるものの、応急手当普及員講習は、「善意で救助を行う市民を育成する講習」としての設計にしかなっていないのではないでしょうか。


例えば、救助者の法的責任に関する教授内容をみても、「非医療従事者が行う応急手当は、結果が悪いものとなっても責任を問われることはない」で終わっている場合がほとんど。

それを「正しいこと」として聞いた受講者は、自身が担う救命講習でそれと同じことを受講者に伝える。そこが学校や保育、警備、介護といった、職務上傷病者対応の義務ある人=対応不適の責任を問われる立場にある人のための講習であっても。


残念ながら現在、対応義務者の立場や責任を踏まえた講習をできる人を直接的に育成する場は皆無と言わざるを得ません。 善意の市民救助者を育成する講習をベースに、職種の特性や法的責任等をかんがみたアレンジをする知識や意欲がある人に頼らざるを得ない状況は、まだまだ続くでしょう。


昨今の学会発表等をかんがみると、対応義務者向けの救急教育プログラムが創設され、全国的に運用される可能性もなきにしもあらずですが、今のところ大きな動きはありません。


指導者がテンプレートのような救命講習を行うのではなく、受講者の活動領域やそこに求められるスキル、法的責任などを踏まえた「現実主義の救命講習」を展開することが、対応義務者の救命スキルを向上させ、その結果、我が国の救命率向上に繋がるのではないでしょうか。



「現実主義」の救命講習を考えませんか?


「講習で教わった」と「現場で動ける」には、大きなギャップがあります。

そのギャップを少しでも小さくすることが、現場で動ける救助者を育成し、救命率を向上させることに繋がります。


お作法のごとくマネキン相手の運動を繰り返すのではなく、現場をかんがみた「現実主義」の講習展開をいっしょに目指しませんか?


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