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0003 対応義務者の救命処置トレーニングと法制度

最終更新: 2019年12月4日

前回、対応義務者の救命法トレーニングの現状について取り上げました。


リンク:ブレイブハートNAGOYAの講習展開

https://www.qq-bh758.com/post/_0002

救命率向上には、善意の市民救助者の養成のほか、職務上傷病者対応の義務がある立場にある人(ここでは「対応義務者」といいます。)の資質の向上が不可欠。

しかしながら、対応義務者に適したトレーニングの場がないことがネックになっている…ということを取り上げました。

アメリカではCPRやファーストエイドのトレーニングが法的義務

米国では、米国労働省(US Department of Labor: DOL)の連邦機関のひとつであるOccupational Safety and Health Administration;OSHA(労働安全衛生管理局;オーシャ)が、労働安全衛生に関する様々な規則を定めており、その中に心肺蘇生やファーストエイド、血液媒介病原体対策に関する教育についても定められています。

リンク:OSHA 1910.151 - Medical services and first aid.

https://www.osha.gov/laws-regs/regulations/standardnumber/1910/1910.151

一般の事業所であっても、OSHAが定める基準に適合した資格を保有している者を1名以上配置しなければならず、特定の職種においてはさらに厳しい基準が定めているほか、州の規定等によっては、教職員等は有効な当該資格を保有していないと業務に従事できなかったり免許が更新できなかったりもあるようです。


OSHAの基準に適合した労働者向け講習として、アメリカ心臓協会AHAの「ハートセイバーCPR AED」「ハートセイバーファーストエイド」「ハートセイバー血液媒介病原体」などがあります。 このハートセイバーシリーズのことを「一般市民向けの講習」と紹介しているウェブサイト等を見かけることがありますが、あくまで「業務上傷病者対応が求められる非医療従事者」のための講習であり、日本の普通救命講習のような「善意で救助を行う一般市民向け」のものではありません。


救命処置トレーニングの法的義務がない日本の対応義務者


これに対し日本の対応義務者は、米国のように心肺蘇生やファーストエイドのトレーニングが法令で直接的に義務付けられているわけではないため、そのスキルは事業者によってまちまち。

自分たちの職業に課せられた社会的使命を認識し、適切な研修を行っている事業者もあれば、法的義務がないのをいいことに、何の研修も行わない事業者まであるのが日本という国なのです。



例えば、人の生命・身体・財産を守るサービスを業としている警備員であれば、心肺蘇生法の研修くらいは会社が必ず行っていると、多くの方は思うでしょう。しかし、普通救命講習程度の一次救命処置すらできない警備員や、そのような研修をまったく行っていない警備会社が多数存在するのが実態です。

警備業法第21条において、警備業者が警備員に対する指導教育を行う義務が定められているほか、その下位法令たる警備業法施行規則の第38条において教育の必要項目や最低時間数が定めてられているものの、救命処置は法定教育項目の「事故の発生時における警察機関への連絡その他応急の措置に関すること」に含まれており、当該項目の詳細内容は警備業者が独自に定めることから、そこに心肺蘇生等を含めなくとも警備業法等の違反となることはありません。

また、警備員に関する国家資格であり、全6種別で1級と2級が存在し、筆記試験と実技試験が行われる「警備業務検定」でも、心肺蘇生やファーストエイドのスキルが資格取得や維持に影響することはありません。

当該資格取得のための講習運営機関のテキストはいずれも心肺蘇生等を取り上げてはいるものの講義で多少触れるのみであり、実技試験科目には成人の心肺蘇生すら含まれていないほか、資格申請時の要件にも救護関係資格等が求められることもありません。


民間資格たる「防災士」がその資格申請時に普通救命講習以上の講習修了証等を要求していることをかんがみても、警備員の救命処置スキルには疑問が残るところです。

もっとも、「警備契約でそこまでの業務が要求されていない」という事情もなきにしもあらずですが、救命率向上を考えると、警備員の救命処置スキル向上には課題がたくさん存在します。


これ以外の対応義務者職種も似たような状況が多数存在します。 ここですべてを取り上げると膨大な文量になるので今回は代表として警備員を取り上げましたが、米国のような法的効力を発する決まりごとができない限り、対応義務者の救命処置トレーニングは進まないのかもしれません。


対応義務者の教育を誰が行うのか

警備会社や介護施設からの依頼に基づき、地元の消防職員が出向いて救命講習を開催した。 全国で実際によくあることですが、どうもおかしさを感じます。


「企業が行う営利目的の行為に関する職業訓練に」

「公務員である消防職員が出張して」

「無料で講習を行う」


のです。

企業の営利目的の行為に対し、税金が一定額投入されている…ともいえます。


「職業訓練」たる救命講習は、市民向け救命講習のような「普及啓発」とは異なるもの。

前回、「消防が行う救命講習は住民が対象であり、対応義務者はそもそも対象外」ということを取り上げましたが、依頼する企業側も、受託する消防機関側も、この点を理解していないのではないでしょうか。


とはいえ、誰が対応義務者向けのトレーニングを提供するのかと問われれば、正直適任者は非常に少ないと言わざるを得ないのも実情。

国内のAHAインストラクターであっても、病院外を主たる活動領域とし、対応義務者の業務内容を把握し、適切なトレーニングを提供できる者は、数えるほどしかいないかもしれません。


対応義務者たる職種の企業の中には、応急手当普及員資格者を社員に取得させて社員の教育を行っている企業もありますが、この応急手当普及員資格も実のところ、対応義務者向けのトレーニングを行うには力不足…いえ、そもそも資格制度自体が対応義務者を想定していないといえます。


このあたりは次回以降でまた取り上げて参ります。

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