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執筆者の写真ブレイブハートNAGOYA

0018 間違いだらけのAED Vol.5 – AEDに関する知識等を誰が普及するのか -

これまで4回に渡り、AEDに関する誤解や不適切な状況等をお伝えしてきました。


シリーズ過去回
 
Vol.1 - AED使用者の法的要件 -
https://www.qq-bh758.com/post/_0014
 
Vol.2 - 止まった心臓はAEDでは動かない –
https://www.qq-bh758.com/post/_0015
 
Vol.3 – 意識がある人に電気ショックを行うことがある?! -
https://www.qq-bh758.com/post/_0016
 
Vol.4 – AEDは本当に救命のために設置されているのだろうか -
https://www.qq-bh758.com/post/_0017

正しい知識がなければ、何事もうまく進まないもの。

AEDは初めて使う人でも簡単に使うことができる設計にはなっていますが、それはあくまで操作法について。

AEDの使用目的や効果、使用に関する前提条件などは、どこかの機会で学習する必要がありますが、その機会はどこで得られるのでしょうか。

 

設置者に対するトレーニングは誰が提供すべきか

前回、救命効果をかんがみないAEDの設置について取り上げましたが、もちろん、AEDの本来目的である救命を考えAEDを購入・設置する企業等もたくさんいらっしゃいます。

そのような方々はAED設置にあわせて従業員を集め、一定時間の講習会の開催を考えるものですが、AED販売者に講習会開催を依頼しても、「講習会は消防署に頼んでほしい」といった回答をする販売店が少なくないようです。

現にそのような事情から、私どもにAED導入に伴う講習を依頼くださった企業等もありますし、設置者から「導入当時に講習が開催できなかった」という話を聞くこともあります。

AEDを設置した企業にしてみると、特にAEDを初設置するときは、社内の注目度も高まり、講習を行うには格好のチャンスといえますが、そこで教育の場が設定できないのは何とももったいないこと。

人命を左右するAEDという機器を販売する方々は、自分たちの事業が社会に及ぼすインパクトを認識し、ユーザーがAEDを活用した救命処置を適切に行うことができる体制づくりまでサポートすることがAEDの販売行為であると捉えて頂きたいと考えます。

機器を売るだけでなく適正な体制づくりまでサポートしてくれる販売店を選ぶか、それともただ機器だけを売る販売店を選ぶか。

このような観点からも販売店の選択ができるのではないでしょうか。

 

AEDの販売店の現状

AEDの販売店もさまざまで、メーカーのほか、医療機器販売店、警備会社やビル管理会社、防災用品会社のほか、OA機器会社などがAEDを販売していることもあります。


ビジネス的な話をすれば、AEDは他の商材(販売店のメイン商材)のセールスに繋げるための材料としての意味合いもあり、例えばOA機器会社がAEDをある企業に納品すれば、5年間はその企業に出入りすることができ、その間にコピー機などの他の商材のセールスも行うことができます。


数年間その企業に設置され、その間に更新や廃棄されることもなく、さらに消耗品交換等を理由に訪問もできるAEDは、販売者にとっては「客先に合理的に訪問する理由をつくるツール」でもあるわけです。

販売店の中には、会社の理念やAED販売の目的を踏まえ、1時間程度の講習会開催を無償で行っている会社や、2~3万円程度で講習を受託できるようにしている会社などもあれば、売って終わり(使用法のDVDが同封されているので、それを観てほしいというスタンスなど)という会社もあります。

担当者の知識もまちまちで、自身の立場と責任をかんがみて、応急手当普及員やBLSプロバイダーなどの資格を取得して、救命処置に係る知識全体の錬成を図っている人(または会社として適切な研修を行っている場合)もいれば、機器の使用方法程度しか知らない人までさまざま。

心臓突然死の減少という目的を掲げ、市民による使用のための普及が始まった我が国のAED。その大目的を達成するためには、正しい知識と救命法スキルを普及させる立場としての販売店の活躍が不可欠ではないでしょうか。


 

救命法指導者の質をいま一度考える

この15年ほど、善意で救助を行う一般市民(バイスタンダー)による救命処置実施率向上を図るべく、我が国の心肺蘇生法は様々な簡略化がなされてきました。

一般市民による心肺蘇生はそもそも何の義務もない善意によるもの。そこに対しあれこれ求めるのでは、普及はなかなかうまくいきません。

「見てみぬふりをせず、何かしてくれただけで大感謝」

「もし可能であれば119番通報をして、消防官の指示のもとCPRを…」

というスタンスで十分ではないでしょうか。

ガイドライン等に則った適正な対応を行うべきは、救急隊をはじめとした救急医療サービス、そして、職務上の責任において傷病者対応を行う立場(警備、保育、教職員、介護など)です。

一般市民に対する教育効果を考えると、難しい印象がとにかく強い救命処置をいかに簡略化し、「わたしにもできるかも!」という自信をもたせることはとても大切なこと。

アメリカでは「人が倒れたら911通報をして、とにかく胸を押すんだ!」というくらい簡略化し、かつユーモアある普及啓発がなされているくらいです。



しかし、昨今の世の情勢をみると、AED使用に関しては「省いてはいけない部分まで省いてしまった」という印象を受けるのも事実。今回のシリーズは、そんな世の情勢に対し警鐘を鳴らす意味で企画しました。


このシリーズで触れたことは、我が国における市民向け救命講習指導のバイブル「救急蘇生法の指針(市民用・解説編)」(税込1650円)に記載されていることも多分に含まれています。

もし同書を読んだことがないという救命法指導者の方は、今すぐにでも同書の内容を把握頂くことをお勧めします。

救急蘇生ガイドラインで推奨されている手順を実際の講習等で展開するための手順が定められているのが同書。これを読まずして日本の救命講習は始まらないと言っても過言ではありません。


他方で、2018年にアメリカ心臓協会AHAが発表した蘇生教育に関する提言の中には、このような記述もあります。

蘇生科学の進歩が進んでいるにもかかわらず、心停止の生存率は、院内および院外の両方で最適ではありません。

Resuscitation Education Science:Educational Strategies to Improve Outcomes From Cardiac Arrest: A Scientific Statement From the American Heart Association
 
日本語訳された全文はこちらから閲覧できます(PDF)

この提言では、蘇生教育に関するさまざまな方策が挙げられ、その中には、現場での実効性までも意識できる指導者の養成も謳われています。

教える内容が簡略化されているから、指導者が習得しておくべきことも簡略化してよいということではないはずです。

全体像をしっかり把握し、その中から核となる部分や幹となる部分を見誤らずチョイスし、簡潔明瞭に教授する。

人の生死を左右する分野だからこそ、正しい知識と根拠をしっかり持って指導にあたりたいものです。

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