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0025 バイク事故の負傷者のヘルメットは脱がせるべき?

昨日、ヘルメットリムーバーに関する記事をTwitterに投稿しました。 日本モーターサイクルスポーツ協会(MFJ)では、2006年からロードレース競技会に参加するライダーのヘルメットリムーバー着用を義務付けており、バイクレースに携わる人にはおなじみの用品も、一般道を走るライダーにはまだまだ認知度が低いものです。


(提供:S3 Riders Aichi )


一般道でのバイク事故対応にあたる救急隊や消防隊への認知度もまだ低く、ヘルメットリムーバーを着用している人が一般道で事故にあった際、救急隊がリムーバーの存在を知らず、負傷したライダー自身がリムーバーを引っ張ってヘルメットを脱いだ…という話もあるようです。

多くのライダーが抱く疑問


バイク事故時のファーストエイドについて最もよく聞かれるのが「ヘルメットは脱がせるべきなのか?」というもの。

近年、ウェアラブルカメラの普及により、バイク事故に遭遇したライダーが撮影した動画がYouTube等にUPされることもありますが、多くの動画においてバイスタンダーが初期段階でヘルメットを脱がしているのがみてとれます。(他にも、負傷者や倒れているバイクを動かすか否かという質問も多く寄せられますが、本記事ではその点については取り扱いません。)


医療従事者や救急隊員等の専門職や、レース関係者でもない限り、この分野の救急法トレーニングを受けられる機会はほぼ無く、多くの方が疑問を抱くのも仕方がないのですが、負傷したライダーのヘルメットを脱がせるかどうかは、「やる」「やらない」の二言で片付けられるものではないのです。

ヘルメットの取扱いもファーストエイドのひとつ


突然の病気やケガに対する救助行動である「ファーストエイド」の目的は、次のように定義されています。


1.ファーストエイドが必要な事態を認識し、評価し、手当の優先順位をつける

2.適切な知識、技術、行動を用いてケアを提供する

3.限界を認識し、必要に応じてさらなるケアを求める

  (AHA 心肺蘇生と救急心血管治療のためのガイドラインアップデート2015から)

ファーストエイドは「生命危機を及ぼす事象はないか」「手当を行わないと生命危機に至るか・放置しても大丈夫か」「どこから手当すべきか」などを繰り返し判断し、必要性があるからこそ傷病者の体に触れて何らかの手当を行うもの。

知っている手技をやみくもに行えばよいというものではありませんし、目に入った傷病から順に手当を行えばよいというものでもありません。



例えば、一般的な救命講習や防災訓練でもよく取り上げる骨折時の手当。

骨折時はとにかく副子をあてて三角巾等で固定して…となりがちですが、119番通報ができて、数分後には救急隊という高次の対応者に引き継ぐことができるのであれば、「安静にさせる」が最良の判断・処置となることも少なくありません。


それでは、バイクで事故の負傷者のヘルメットを脱がせる理由や必要性とは何でしょうか?

それをしたらどうなる?しなかったらどうなる?

そのような判断のもとに行動を決定する必要があるのです。


※ファーストエイドの必要性の判断については、こちらの記事もご覧ください
 0010 反応がある傷病者の対応とファーストエイド教育のあり方
 https://www.qq-bh758.com/post/_0010 

明確な必要性があるならば脱がせるべきだが…


バイク事故のような外傷であっても、突然の病気であっても、人間が死んでしまう理由の根本は「酸素が全身に行きわたらなくなるから」というもの。

その要因は、空気の取入口(鼻や口)や空気の通り道が詰まってしまう、酸素を血中に取り入れる肺の機能が損なわれる、酸素を運ぶ媒体(血液)が少なくなっている、血液を送るポンプ(心臓)の機能が損なわれているなど実にさまざまですが、どこで酸素が滞っているかを判断するために、「ABCDE」の順に傷病者のからだをみていきます。

また、手当の優先度もA>B>Cの順に高いものです。



例えば、傷病者が息を吸うたびにゼーゼーといった異音がして苦しそうであれば、気道確保をする必要があると判断しますし、正常な呼吸が止まっているのであれば人工呼吸をする必要があると判断します。その際にヘルメットが障害となるのであれば脱がせる必要があるといえます。


ただし、ヘルメットを脱がせるにあたっては、傷病者の首に負担を与えることとなります。

頸椎を損傷すれば、傷病者の命は助かったとしても、後遺症が残る可能性が高くなりますが、頸椎の損傷は事故そのものよりも、その後に首に外力が加わり起こることのほうが多いといわれていることから、できる限り首に負担を与えたくはありません。


しかし、頸椎(神経)は「D」に属するものであり、気道「A」、呼吸「B」、循環「C」の方が手当の優先度は高いもの。頸椎損傷を恐れるがあまり、気道や呼吸の危機を放置すれば、傷病者は死に至ることとなります。


「A」の手当である気道確保も、救急隊員等の専門職であれば首の動揺をできる限り抑える「下顎挙上法」を使用しますが、市民救助者であれば一般的な「頭部後屈顎先挙上法」を使用して構わないとされています。

優先すべきは頸椎の保護(D)より、確実な気道確保(A)です。


(市民救助者であれば頭部後屈顎先挙上法でOK)


とはいえ、傷病者に与える負担は最低限になるよう配慮すべきもの。

傷病者の首にできる限り負担を与えずにヘルメットを脱がしたいところですが、これは十分な訓練を受けないとなかなか難しいものです。

レース関係者やライダースクールの指導員、ツーリングクラブのリーダーなど、バイク事故に遭遇する可能性が高い方は、専門的なトレーニングを受けておくとよいでしょう。

「首の安静」は市民向けファーストエイドの範ちゅう


交通事故のほか、高所からの転落・墜落など、体に強い外力が加わった際の頸椎損傷を防止するために首の動揺を抑えることは、救急隊員等も行う手技ですが、実は市民向けの「救急蘇生法の指針」でもガイドライン2005時代から取り上げられているものです。


首の安静を保つために傷病者の頭を両側から包み込むようにしますが、これはガッチリ首を固定するものではなく、あくまでそのままの位置で保持するためのもの。頭を引っ張ったり、曲がっている首を戻したりしてはいけません。また、首を動かさないよう傷病者に声をかけ続けることも大切です。


119番通報をして消防官の口頭指導を受けよう


心肺停止の傷病者の救助と同様、市民救助者は携帯電話で119番通報をして、消防官の「口頭指導」を受けながら救助を行うべきです。

突然のバイク事故に遭遇したライダーは冷静ではいられません。冷静で適切な判断・指示をしてくれる消防官と電話で繋がり、自身に危険が及ばない状態で、でき得る範囲で救助活動を行ってください。


バイク事故現場では救助着手以前の「安全確保」がとても重要ですし、事故現場の場所を明確に伝えることもなかなか難しいもの。

それらの特性を踏まえ、ライダーを対象としたファーストエイド講習も過去何度か開催しましたが、新型コロナウィルス感染症拡大に伴い、昨年からは中止しています。(心肺蘇生講習に比べ、受講者どうしの近接や身体接触が非常に多いため)


感染症の動向が落ち着いた際には、また開催したいと考えていますので、ウェブサイトやSNSの情報をご覧ください。

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