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  • 執筆者の写真ブレイブハートNAGOYA

0024 傷病者の評価法の基礎(セミナー『生命危機を見逃さない傷病者対応』事前学習サポート記事03)

前回、「酸素の流れに沿って傷病者をみる」ことが効率的・効果的である旨を説明しました。なんとなく傷病者を観察するのではなく、「ここをこう観る!」と、傷病者評価のプロセスを意図的に実施することで、根拠ある判断や緊急度の判定に繋がります。


 

接触前から評価は始まる…『第一印象』の重要性


一般的なBLS:一次救命処置(心肺蘇生や気道異物除去など)の講習であれば、安全を確認した後に傷病者に近づき、肩を叩きながら「大丈夫ですか」などと呼びかけるところから評価が始まります。(安全確認の後に大出血の有無を確認させるコースもありますが…)

では、皆さんが駅の通路に横たわっている人を見つけ、「あれ、あの人大丈夫かな…?」と思ったとき、すべてのケースで実際に肩を叩き呼びかけているでしょうか?

多くの場合に「あぁ、大丈夫そうだな」という判断に至っている要素は何でしょうか?

何気なく判断をしている部分かもしれませんが、その判断プロセスを言語化すると、次のようなものになるでしょう。

これらはじっくり観察するものではなく、ぱっと見(2~3秒)で判断するものです。



外見

意識状態が悪そう(ぼんやりしている等)、会話がうまくできない程度である、筋緊張が無くぐったりしている など

呼吸仕事量

酸素をたくさん取り入れようと頑張って呼吸をしている感じ(肩や首が上下している、呼吸が速いなど)がある、呼吸のたびに異音(ゼーゼーなど)がある など

循環(皮膚色)

顔色が蒼白い(逆に普段より赤みを帯びている)、唇が紫色をしている、皮膚の赤い部分とそうではない部分がまだらになっている など

街中であろうと病院であろうと、目の前に現れた人が、健康なのか、それとも具合が悪いのか、特に「何かヤバそう!」と思う程度の具合の悪さなのかを評価し、介入(救助に着手)するか否かを決定するプロセスが、第一印象の評価です。

「普通と何か違う」という直感は、救命分野では大事にしたいものです。

その着眼点を明確にし、意図してそこをみることで、評価の品質が高まります。


 

心停止の可能性があるかを評価する…『反応』の確認


介入の必要があると判断したら、傷病者に近づき、反応を確認します。

反応がなければ「心停止の可能性がある!」と考え、119番通報やAEDの手配など、BLSの手順に進みます。

ここで反応が返ってきたならば、ひとまず心停止ではないと判断できます。

しかし、何か具合が悪そうと思い介入したのですから、応援を呼ぶとともに、どこにどんな異常があるのか、何が必要なのか、救急車を即時要請する緊急性があるのかなどを次に評価していきます。


 

酸素の流れに沿って傷病者をみる…ABCDEアプローチ

酸素が口や鼻から取り入れられ、体中に巡る順序をもとに、その過程で何か異常が起きていないかをみていきます。



A:Airway=気道

1.気道は開通している(声が出せれば気道は開通しているといえます)

2.気道確保や姿勢の工夫を行えば、開通は維持できる

3.何らかの要因で気道が開通していない

どの段階にあるのかを評価します。

気道が開通していないのであれば、一刻を争います。背部叩打法や腹部突き上げ法などを用いた窒息の解除が必要になるかもしれません。

B:Breathing=呼吸

息を吸うときや吐くときに「ヒューヒュー」や「ゼーゼー」といった異音がすれば、気道が狭くなっているとわかります。掃除機で物を吸い込んで詰まった際にズズズ…と音がする(空気の通り道が細くなっている)状態や、すきま風が入ってヒューヒュー音がしている状態を思い浮かべるとよいでしょう。

また、酸素が足りないとき、人は首や肩のあたりの筋肉も使って、なんとか空気を取り入れようとします。マラソンの後などにもみられる、いわゆる「肩で息をしている」状態がこれです。(呼吸努力といいます)

安静にしているのに呼吸努力がみられる場合、どこかで異常が発生し、酸素が足りていないことがわかります。

この他、安静にしているのに呼吸数が普段より多い、呼吸が浅い、逆に呼吸が普段より少ない、呼吸の際に首や胸がくぼむなども、呼吸に関する異常を示す兆候です。


C:Circulation=循環

血の巡りが循環。医療の専門家であれば、脈をみたり、血圧を測ったりすることもありますが、医療の専門職ではないファーストエイドプロバイダーが脈をみることは非常難しいものですし、血圧計などの機器は使用できません。

また、看護師などの専門職であっても、器具がない病院外領域で傷病者に遭遇した場合には、自身の五感を駆使して評価を行う必要があります。

顔の皮膚色や、唇などの粘膜の色は、器具を使わず、かつ服を脱がすことなく循環を評価できる部分です。

血液の巡りが悪いと顔色は青白くなりますし、血液は巡っていてもそこに含まれる酸素が少ないと唇が紫色になるといった兆候がみられます。

逆に、顔が普段より赤みを帯びている場合も、何か異常が起きていることを示しているでしょう。

病気でいま顔が蒼白いのか、もともと肌が白い人なのか迷う場面もあるかもしれませんが、循環の状態が悪いのであれば、酸素を多く取り入れようと呼吸数が速くなったり呼吸努力があったりという呼吸状態の変化や、脳への酸素供給が減ることによる意識状態の悪化などもみられるでしょうから、ひとつの要素だけで判断するのではなく、複数の要素を組み合わせてトータルで評価していきましょう。



ちなみに…

いまはCOVID-19の影響が落ち着けば、海外からの旅行客もまた増加傾向になると思われます。

もしかしたらこのような肌色の方が傷病者である現場に遭遇することもあるかもしれません。顔色がどうなのか、日本人のようにはわかりません…さぁどのように循環を評価しましょうか???



〈PEARS受講歴がある方へ〉

この講習では、非医療従事者の皆様が傷病者を学ぶことができるよう、できるだけ平易な言葉で解説を行っています。

PEARS受講歴がある方は、ABCDEの着眼点や、所見(吸気性喘鳴や陥没呼吸など)が示唆する症状、そのメカニズムなどを自身で説明できるか、予習段階でお試しください。


 

ABCに異常があればすぐに119番通報と考える


ABCの評価の後には、DとEの評価も続くのですが、まずはA・B・Cの評価をしっかりおさえておきましょう。(DやEの評価は講習内で触れていきます)

A・B・Cいずれかに異常があるということは、生命維持に欠かせない酸素の流れがどこかで滞っているということ。とりあえず様子見…ではなく、緊急性が高いものとして即119番通報すべきと考えましょう。

応急手当に関する書籍には「意識状態の悪化は、脳に異常があることを示している」と記載しているものもありますが、A・B・Cいずれかに異常がある、すなわち酸素供給の過程に異常があれば、神経系(D)自体に異常がなくとも意識状態の悪化を引き起こします。

意識状態悪化の真の要因はどこにあるのか。惑わされずに評価を行うために体系的なアプローチを活用した冷静な評価が望まれます。

根拠を持った傷病者評価は、説得力を向上させることにも繋がります。

例えば学校や保育所での傷病者発生時には、「おおごとにしたくない」と、権限を持つ管理者が119番通報を嫌がるケースも散見されます。

その際に養護教諭などが根拠と具体性をもって傷病者の生命危機を説明することで、管理者を納得させやすくなるかもしれません。

なお、前回の最後に出題したこの写真。

皆さんはどんな対応をすると考えましたか?

頭部から目に見える出血がありますが、この程度の出血量ですぐに死に至ることはありません。

体系的なアプローチを活用して評価を行ったところ、気道も開通しておらず、呼吸もできていない…。すぐに心肺蘇生が必要なケースです。

飲食中の窒息で意識を失い倒れ、倒れた際に頭を打ち出血。その後それを発見した人が、頭からの出血にとらわれて窒息を見逃し、やがて傷病者は死に至り…という実例をもとにした想定です。


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