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0021 「周囲の安全ヨシ!」の奥深さ -状況評価のトレーニング-


注:この記事は、善意で救助を行う一般市民や、労働現場での事故発生時に救助を行う労働者向けの救命法トレーニングを主眼として作成しています。


「救助者の身を守ることがまず大切です」

「傷病者のまわりに危険がないか確認してください」

という説明は、どんな救命講習でもなされていることでしょう。

それを受け、受講者は傷病者の周囲を指さし、「周囲の安全ヨシ!」だとか「周囲は安全です」というコールをして傷病者に近づく。

講習によっては、「上下左右をそれぞれ指差して」などという指導がなされていることもあるでしょう。

ではこの練習で、受講者が実際の現場で危険がないかを評価し、安全を確保することが可能になるでしょうか?

「ではどうするか?」の判断までがセット


この写真の場面ではどんな危険がありますか?

と受講者に聞くと、多くの方が「自分も感電するかもしれない」と答えますが、「ではあなたはどう行動しますか?」と聞けば、返答する方は減ってしまいます。

現場の状況を把握して危険が無いかを判断する「状況評価」は、危険を見つけ出して終わりではなく、それを踏まえてどう行動するか?を見出せなければ意味がありません。

このような認知や判断のスキルは、講習会場であれば、少なくとも写真や映像を見せてディスカッションするといった手法が必要。

いかに上下左右を数秒かけて指差呼称させようとも、それは指をさす運動と「周囲の安全ヨシ!」と発声する運動の練習にしかなりません。

危険への感受性を高めるために

あなたが河川敷を散歩していたら、作業服を着た20~30歳代くらいの男性が赤丸の位置に倒れているのを発見しました。救助にあたりどんな危険があり、それを踏まえあなたはどう行動すべきでしょうか?

さぁ、皆さんはどれだけ挙げることができますか?

危険への感受性は人によって大きく差があります。

同じ場面を見ても、危険を1個しか想像できない人と、10個以上想像できる人まで様々。

世の中の様々な事象についてこれまで触れてきた経験や情報量がその差を生み出しているのでしょう。

講習の場で「そうか、そんな危険もあるんだ!」といかに多くの気づきを与えられるかが、受講者の危険に関する感受性を高めるために大切な要素となります。

「危険がないか確認してください」では危険予知のスキルは高まらないのです。

上記の河川敷の写真は、川で業務を行っていた男性が、ハチに刺されて行動できず倒れてしまった事例(実話)をイメージしたもの。

ハチの他にも、斜面で滑る、足元の草でつまずく、ヘビがいる、植物のトゲが刺さる、近くに草刈り機等の機械がある、作業に使用していた刃物が落ちているなど、いろいろな可能性が考えられますね。

なお、「安全」の定義は諸説ありますが、「許容できないリスクがない状態」というものが一番わかりやすいものかもしれません。

危険を考えだすと「隕石が落ちてくる」といったものまで考えられるのですが、発生頻度・可能性などを考えれば現実的ではありません。

ゼロリスクな環境はありえません。どこまでを許容し、どこまでを解消すべきリスクを捉えるか。立場や状況によってそれは異なります。




参考:【洪水】中国の冠水道路に潜む感電事故リスク(YouTube)
https://www.youtube.com/watch?v=TNsLCO1qlbA&vl=ja

洪水により漏電が発生し、感電した人が倒れる⇒それを見つけて助けようとした人まで感電して倒れる…という事故が中国では多発したようです。

倒れている人を見ると駆け寄りたくなりますが、「なぜここで?」という考えをまず持ちたいところです。


「とにかく助ける!」では要救助者が増える

作業現場でふたりの作業員が倒れているのを発見した。

さぁ、どう行動しますか?

応急手当を学んだ人であれば、「どちらから声をかけるか」「2台のAEDをどう確保するか」といった考えが浮かぶことでしょう。

しかし、ふたりが一度に心臓発作で倒れる可能性など、どれくらいあるものでしょうか。

ここでは「ふたりが一度に倒れる程度の危険な事象が起きている」と考えたいところです。

作業現場でよくあるのが酸欠や有毒ガス。

ひとりが倒れ、それを助けに向かった二人目も倒れ…という事例は少なくありません。

他にも、感電事故の可能性等もありますし、場合によっては第三者の加害行為によってふたりが倒れていることもあるかもしれません。

きょうもこのようなニュースが流れました。


一酸化炭素中毒か キャンプ場で4人搬送(Yahooニュース)
https://news.yahoo.co.jp/pickup/6368381

安全に救助を行うことができないのであれば、直接的な救助に着手できないこともあるかもしれません。「見殺しにするなんて!」と思われるかもしれませんが、ファーストエイドの原則を忘れてはなりません。



1.ファーストエイドが必要な事態を認識し、評価し、手当の優先順位をつける
 
2.適切な能力を用いてファーストエイドを行う
 
3.ファーストエイドの限界を理解し、必要に応じて次に委ねる

JRC蘇生ガイドライン2015から)

「限界」というのは、職種や立場、状況によってその幅は異なりますが、限界を超えた救助は、要救助者を増やすことに繋がります。

また、「次に委ねる」こともとても大切なこと。我が国の病院外領域の傷病者発生であれば、119番通報がこれにあたるでしょう。

講習ではさらっと流されがちな119番通報ですが、実はCPRやAED使用よりも大きな救命率変動をもたらす処置であるといわれています。(画像中の数値は、傷病者を放置した場合に比べてどれだけ救命率が向上するかを表したもの)



目の前の傷病者に直接手を出すことだけが救助ではなく、新たな要救助者を生み出しないことなども踏まえ、最大利益を生み出す行動をせよ…というところではあるのですが、いわゆる「トロッコ問題」のように、なかなか悩ましい判断もあることは確かでしょう。

「安全な爆弾テロ現場」って何だ?

昨年は一部の救急法講習実施団体で、市民救助者を対象としたターニケット(軍用止血帯)のトレーニングが始まりました。


林業や重工業といった、四肢切断を伴う重傷事故リスクが高い職場における救助を想定したものではなく、大規模国際行事に伴うテロの現場を想定したものという説明がされており、そのような現場で市民にターニケットを使用した止血を行わせようという取り組みです。


このようなターニケットに関するセミナーで言われたのが、「現場が安全でターニケットがあれば使用してください」というものですが、そもそも想定しているのは爆弾テロ等の現場。ひとつめの爆発で人が集まったところでふたつめを爆発させるだとか、ひとつめの小規模な爆発で人々が逃げていく経路上で本命の爆発を起こすというのは、爆弾テロの常套手段。

爆弾に有害な物質が含まれていることもありますし、爆発で混乱した現場に銃器を持ったテロリストが侵入してさらなる殺傷を…ということも考えられます。

テロ発生直後の現場で、そこに居合わせた市民にとって「安全である場合」など存在するわけがないと考えるのが妥当ではないでしょうか。

その場に居合わせてしまったのならば、直ちに現場を離脱し、専門的装備やスキルを有する機関に対応を委ねることが必要です。


都合よく物事を捉えた「見せかけの安全」や「想像上の安全」ではなく、本当に安全であるかどうか、許容できないリスクがないかをしっかり判断したいところです。

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