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執筆者の写真ブレイブハートNAGOYA

0026 見るから"観る"へ・そして認識へ - 観察力を磨く -

救命講習を受講した方から「講習を受けてから傷病者に遭遇することが増えた」といった話をしばしば伺います。

お祓いを受けた方がいいかなと冗談を仰る方もいらっしゃいますが、この大きな理由は「傷病者がいることに気付くようになった」というものではないでしょうか。

講習で心肺蘇生法やAEDを知ってから、こんなところにもAEDがあったのかと気付くようになる方もたくさんいらっしゃいます。

人の目には常に大量の情報が入っていますが、そのすべてを脳で処理していては脳がパンクしてしまいます。そのため、必要とする情報以外の情報をカットする機構になっているのですが、これが影響して「見えているけど認識していない」という状態が発生します。

守るべき対象の異常にいち早く気づいて介入すべき立場である医療従事者のほか、保育や介護、警備といった職務に就いているのであれば、この特性を踏まえ、見るのではなく観る、そして認識するための手法を実践することが必要です。

 

認識・判断・伝える/伝わる


街中での傷病者発生に気づく人は、


・普段は人が歩いて流れている駅通路なのに、数名の人が立ち止まってる

・その人たちが一点を囲むようにして立っている

・皆が同じ場所、しかも斜め下方向(床の方)を見ている

・向こうの方から駅員が走ってくる


といった状況をとらえ、それを統合して「異常かも?」と判断するからこそ、その人だかりに近づき、本当に傷病者がいるのかを確認する…といった行動をするので、結果的に傷病者に介入する機会が増えるわけです。

病棟の看護師など、守るべき対象の異常に気づいて介入すべき職種においては、「皆が気づかなかったのに、〇〇さんだけが異常に気づいた」というケースがしばしば発生しますが、この差も「着眼点の多さ」に起因すべきものでしょう。

何となく見る(眺める)のではなく、明確な着眼点と判断基準をもってそこを観るからこそ、その点が正常か異常か(基準とのギャップがどれだけか)を判断できるものです。

また、捉えた異常をいかに他者に"伝わる"表現を用いて伝達し、関係者を動かすかというスキルも欠かせません。

ただ「何かおかしい」「辛そう」といった主観的・抽象的な表現をしても、その異常にそもそも気づけない人たちや、別室にいてそれを自分の目で見られない人たちには、「気のせいよ」「様子を見ましょう」などと片付けられてしまうことも多いもの。


●検温時、これまで毎日挨拶を返してくれたのに今日は返してくれない

●呼吸数が30回/分

●息を吸う時にゼーゼー音がし、肩を上下させている

●唇が紫色になっている

など、客観的事実を述べることで、情報の信頼性は高まり、生の状況を見ていない人の「危機のスイッチ」を入れることにも繋がります。


保育園看護師さんや養護教諭さんから「すぐに病院へ行かせるべきと説明しても、園長(校長)が「様子見しよう」といって動いてくれない」という相談をしばしば頂きますが、その説明が主観的・抽象的で、危機的状況が伝わっていないケースが少なくないと感じます。

(伝える技術については、別記事で取り上げたいと考えております)

 

どこまで"観て"いるか?


この画像に写っていることを説明してみてください。

表現にあたっては、「きれいな女性」といった主観的表現は使わないことや、「若い」ではなく「20歳代くらい」と具体性を持つことを心がけてみましょう。



皆さんはどこまで細かな情報に触れることができたでしょうか?

黒いスーツを着た女性が左手に受話器を持ち、右手でパソコンを操作しながら電話している…という概略だけでなく、もっと細かな部分にも目を向けてみましょう。

(ご利用のデバイスによっては細かな部分まで見えないかもしれませんが…)

●左耳に金色で三角形の部分があるイヤリングを付けている

●右手親指や左手中指等には水色っぽいネイルアートをしているが、左手人差指は白色

●受話器のコードは真ん中あたりで1箇所絡まっている

●パソコンの左側にUSB端子が少なくとも1個あり、端子は白色のもの

●光は女性の右斜め前側からさしている ●撮影のためか、右腰部において、水色の洗濯ばさみでジャケットを留めている

 (素材画像なのに洗濯ばさみが映ってしまっているのですコレ…)

このような部分にも気づくことはできたでしょうか?

視界の中にあるモノに注意がいかない「非注意性盲目」や、目の前で起こる変化に気がつかない「変化盲」、思い込みなど、人の「見る」ことには様々な落とし穴が存在し、それが事故等に繋がることも少なくありません。

 

知覚の技法


海外では、法執行機関や軍隊、医療従事者等をはじめとし、「観察力」が必要な人々を対象に、アートを介して観察力を向上させる『知覚の技法(The Art of Perception)』というプログラムが開催されています。

主宰のエイミー・ハーマン氏の著書『観察力を磨く名画読解』は日本語でも発売されています。


FBIやCIAも注目する「知覚の技法(The Art of Perception)」とは何か? 主宰のエイミー・ハーマンが語る|美術手帖
https://bijutsutecho.com/magazine/interview/21834

上記リンク記事の中にある次の記述は、アメリカ心臓協会AHAのコースの中でも謳われていることですね。

看護師の場合で言うと、彼らは、患者をチェックしたあと報告書に容体を「通常の範囲内」と記述することが多いそうです。包括的で便利なので、頻繁に使われるフレーズだそうですが、問題はこの「通常」が見る人によって異なることです。
「通常」という記述のなかで見過ごされる小さな差異が、あとで命取りになることもあるので、少しでもいつもと違うことに気がついたら、チームのメンバーにはっきりと伝達すべきなのです。演習を通じて、参加者は自分の見方がいかに主観的であるかに気付いていき、「アートを通じて観察眼を鍛えることで、患者の見方が変わった」という感想をよく聞きます。「自分と同じものの見方をする人はいない」ということを、プログラムでは強調していきます。

 

急変が多い=観察力の低さの現れ?!


街中で成人が突然倒れる心停止(心原性心停止)とは異なり、呼吸不全等から低酸素となり、やがて心停止に至るものがほとんどです。

これは、突然倒れる心原性心停止とは異なり、数十分から数時間かけて徐々に状態が悪化し、最終的に心停止に至るもの。ある研究では、病院内の心停止患者の70%は、心停止前8時間以内にバイタルサインの変化が表れているとしています。


そのような兆候を見逃し、心停止に至らせてしまうことは、「救命の失敗」ともいえるもの。「私の病棟は急変が多いんですよ!」というトークは、職場の観察力の低さを公言しているも同然ではないでしょうか。

このような見逃しを減らすための観察力をトレーニングして、心停止に至るケースを防止すべく、アメリカ心臓協会AHAが策定したのがPEARSプロバイダーコース。

小児患者の観察等を主眼としたプログラムではありますが、物言えぬ子どもの適切な観察を行うことができるスキルは、成人患者の観察にもそのまま活用できるものばかり。実際の患者の映像を使用して観察力を錬成するのも大きな特徴です。

心電図モニターや血圧計などの機器が揃った場では、つい機器の数値ばかり見がちなもの。

SpO2が96%、血圧が130/80と表示されたから大丈夫なのでしょうか? 患者をみたら呼吸数は30回を超え、肩は上下し、目はうつろで唇は青白く、脈拍100回/分超。これを大丈夫とはいえないでしょう。

数字を見るな、患者を見よ。そんな根本的な観察力を錬成し、生命危機を見逃さずに迅速に介入して患者を危機から救うためのスキルを1日かけてトレーニングします。

PEARSを受講した後は、医療現場で見える景色がきっと変わります。

次回は4月24日(土)にBLS横浜との共催で開催しますので、詳細はブレイブハートNAGOYAのウェブサイトでご覧ください。



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