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0029 呼吸の確認を単なる”お作法”にしないために

市救助者が心停止を判断するための基準は、「反応がない」「普段どおりの呼吸が無い」であることは皆様ご存知のとおりですが、反応の確認に比べると呼吸の確認は理解が難しく、「救急蘇生法の指針」の改定の度に試行錯誤がなされ、手技や表現が変化しています。



突然の心停止では約半数のケースで「死戦期呼吸」が生じるといわれていますが、これを「呼吸している!」と誤認してバイスタンダーCPRが実行されなかったケースは、さいたま市の桐田明日香さんの事故をはじめ、数多く発生している事象です。


呼吸の確認は「体で覚える」では意味がない


胸骨圧迫や人工呼吸などの手技は、体にその方法を染みつけさせ、何度でも正しい動作ができれば習得できたといえるスキル。ボールを投げることや包丁で魚をさばくことなどと同じ、体で覚えるもの(運動スキル)です。

これに対し呼吸の確認は、異なる人間の機構を使うアクションです。


この図の中で、【青い丸の中で一番大きなものを選び、指を指す】という行為を練習するとしましょう。そのためにはまず「青という色」「丸という図形」に関する正しい知識が必要ですし、大きさの比較もできなければなりません。


青い丸の中で一番大きなものは、右下のほうにある、黒色矢印で示したものですが、呼吸の確認もこれと同様に、「目で見て、脳で考えて選ぶ」というアクションが必要。

傷病者の胸や腹を見て、それが普段どおりの呼吸(胸や腹の規則正しい上下を伴う、人間が通常している呼吸)であるかを判断し、普段どおりの呼吸が認められなければ胸骨圧迫を開始するという行動を起こすスキルが求められるものですし、人間の正常な呼吸の見た目や、死戦期呼吸に関する知識も必要です。


では、救命講習内でこのようなスキルを錬成する方策がとられているでしょうか?

多くの場合、胸や腹に視線を送り、「呼吸を確認します。1…2……呼吸なし!」と発声させる、単なる運動スキルの練習にしかなっていないのではないでしょうか。先ほどの図形でいえば、黒色矢印で示した図形を教え、ここに指をさして!ということしかさせていない状況です。


「目で見て脳で考える」を練習に含ませてみよう


インストラクターが知識を伝えるだけでは、判断のスキルは錬成できません。実際に目で見て脳で考えさせる状況をつくることが必要です。


例えば、インストラクターが「死戦期呼吸をしている」「呼吸がとまっている」「正常な呼吸をしている」などの状況を演技し、10秒後に受講者に判断させるといったことは、資機材もなく実施できます。(多少の演技力は要りますが…)


大切なのは、「この人は心停止だ/心停止ではない」の選択を必ずさせること。受講者は少なからず選択を迷い、「判断できない」に至りがちですが、これは実際の傷病者対応で防止したいことです。

判断に迷った結果CPRを実行しないケースを防止すべく、「迷った場合はCPRを開始する」ことが救急蘇生法の指針に明記されているのですから、最初にそれをしっかり伝え、必ず選択をさせることが重要です。


中には正常な呼吸をしているケースを「この人は心停止だ」と判断する人もいますが、これは許容すべきケース。その逆の「心停止の見逃し」は、判断等の改善点を伝え、再度練習すべきです。


なお、ブレイブハートNAGOYAでは、大人数・大規模会場などでも同様の練習ができるよう、さまざまな呼吸状態の模擬傷病者映像(各10秒)を独自につくり、講習内で使用しています。


呼吸の確認はとても難しいものだが…


市民には非常に難しい呼吸の確認。救助のプロであっても正確な判断は難しいことが少なくありません。

かつては脈の確認や循環サインの確認を市民救助者レベルで要求していた時代もありましたが、CPR着手率を向上させるべく手順を簡略化し続け今に至ります。とはいえ、心停止の判断の難易度が格段に下がったわけでもなく、判断には大きな迷いや不安もつきまといます。


傷病者の観察は、反応の確認から始まっているのではなく、傷病者かもしれない人を見つけたときから実は始まっています。

「あれ、この人は何かおかしい…酔っ払いがただ寝ているだけではなさそうだ…」と思いながら近づき、反応や呼吸の状態で傷病者であること、ときに最悪のケースである心停止であることを確定させていくのが現実です。


何をもって「おかしい」と判断しているかは様々ですが、多くのケースで顔色や表情、体位、ぱっと見の呼吸状態などで判断をしているはずです。

G2015の院内版AHA-BLS映像教材では、看護師が病室を訪れた際、入院患者の返答がないことや蒼白い顔をひと目見て「心停止かも!」という危機のスイッチを入れるシーンが含まれていたのですが、G2020映像では無くなってしまったのが残念です。


これは第一印象の評価として、AHAコースではACLSやPEARSなどで手技が定義づけられているもの。

BLS(市民向けCPRも含む)でも、呼吸の確認に加え、ぐったりしている、顔色も血の気が無いといった目ための部分についても評価の要素としてプラスすれば、心停止の判断ももっとスムーズにいくのではと考えています。


心停止の人は、ただ寝ている人と明らかに印象が異なることは、心停止対応をしたことがある救助のプロであれば理解していることですが、市民にはなかなかそれは伝わりません。寝ているよう、亡くなった人のようにぴくりとも動かない、そのイメージは様々です。


実際の心停止傷病者の映像を見せてしまうのが一番早いのかもしれませんが、様々な問題からなかなか難しい部分もあります。

口や体を動かし、しゃくりあげたり、いびきをかいたりすることもあり、目を開いていることもある。そんな実際の心停止傷病者に遭遇したとき、いかに「この人は心停止だ!」と判断させられるか。


講習ではさらっと流されてしまう呼吸の確認ですが、一連のCPRの手技の中で現実に最も難しいのはAED使用や胸骨圧迫などではなく、呼吸の確認であるはず。

救命率向上のためには、この部分のトレーニング品質の改善が欠かせません。

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