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0038 もはや伝統芸能…「あなたAEDを使えますか?」という質問

  • 執筆者の写真: ブレイブハートNAGOYA
    ブレイブハートNAGOYA
  • 3月24日
  • 読了時間: 6分
救命講習会のAED使用場面で、胸骨圧迫を行っている救助者が、AEDを持ってきた救助者に、「あなたAEDを使えますか?」と質問している場面。
よくある救命講習での一場面…(画像はイメージです)

AEDを現場に持ってきてくれた人に、胸骨圧迫を行っている救助者が「あなたAEDを使えますか?」と質問する光景は、多くの救命講習で目にするものですが、弊会のAHA-BLSプロバイダーコースのうち何らかの立場で救命法の指導にあたる方が多い回や、救命法指導者向けワークショップの中ではこう質問します。「あの質問はどんな意味があるんですか?」と。

その回答を聞くと、この質問が救命講習で採用された経緯を理解したうえで指導している人は少ないと実感。日本の蘇生教育20年の歴史が詰まったトピックともいえます。

なぜ今も続けているのかを救命法指導者に聞くと… 「AEDは使えないと答えた人には、胸骨圧迫を代わってもらいたい」という回答が多くを占めます。


「AEDを持ってきました」

「あなたAEDを使えますか?」

「使えません」

「では胸骨圧迫を代わってください」

「わかりました」


こんなやりとりが講習内で繰り広げられます。

でも考えてみてください…市民によるAED使用が始まって20年以上。学校教育でも心肺蘇生が含まれている今、「AEDは使えない」「でも胸骨圧迫は代わってくれる」そんな人がどれだけいるでしょうか。


倒れた人がいれば、心停止でもないのにとりあえずAEDは電源を入れてパッドが貼られている(注:心停止ではない人へのAED使用はNGです!⇒参考記事)今の時代。操作だけでいえば小学生でも使えるAEDを「使えない」と言うのに、それよりはるかにハードルが高い生身の人間への胸骨圧迫は「できる」という人など、まずいないと考えてよいでしょう。


講習運営上の都合で質問させているケース


また、別の理由があり講習内でこの質問を行わせている指導者もいます。

それは、AEDを持ってきた第二救助者がAED使用を拒否しないと、既に胸骨圧迫を行っている第一救助者がAED使用の練習に入れないというもの。講習内での実技練習や効果測定運営上の都合です。


AHAのBLSプロバイダーコースやハートセイバーCPR AEDコースでも、成人の一人法CPR試験では、第一救助者が30:2のCPRを繰り返す中でAEDが現場に届き、AED使用に入ってもらうシナリオが組まれています。何らかの形でAED使用が第一救助者に渡らないと進行できないわけです。


しかし、教育の効果を考えれば、無理やりなシナリオよりも、現実に即したシナリオを採用したいもの。


「AEDを持ってきました」

「私がAEDを使います。疲れたので胸骨圧迫を代わってください」

「わかりました」


この方が実践的ですし、第一救助者にAEDを使用させることも達成できます。疲れたならば胸骨圧迫を交代して質を保つという点の強調にもなるでしょう。


質問は20年前なら有効だった…


今も伝統的に行われているこの質問の本来の意味は、約20年前にあります。


日本で市民によるAED使用が始まったのは2004年(平成16年)7月のこと。そのあとAED使用を含む市民向け救命講習が始まったので、それから数年間はAED使用を含む救命講習を受講したことがある人と、そうではない救命講習を受講したことがある人が街中に混在していたわけです。


AED使用開始の前年2003年の全国の救命講習(普通+上級)受講者は100万人少々(参考資料)で、国民の約123人に1人が「最近消防署で救命講習を受けた」といえる状態にあった当時。「あなたAEDを使えますか?」と質問し、AED使用を行ってもらうか、それとも胸骨圧迫を交代してもらうかを判断するためにこの質問は存在していました。

そこから数年間は意味があった質問も、救命講習=AED使用の講習といってもよいほどAEDが普及した時期からはその意味を失っているでしょう。


その当時、AED使用を含む救命講習では、市民によるAED使用の違法性を阻却するために「あなたは119番通報を…」「あなたはAEDを…」という依頼とともに「あなたは医師がいないか探してください」という依頼をしていた組織も多いものでした。こちらの質問はG2010時代には消えていったかと思いますが、「あなたAEDを使えますか?」は根強く残っているという歴史があります。


なお、この「あなたAEDを使えますか?」という質問、医療従事者養成学校のBLS授業でも行われているのを動画配信サイトで見かけました。CPRもAED使用も当たり前にできる人を養成し、組織の統一手順のもと心停止患者の対応にあたる医療機関において、この質問はどれだけの意味があるのでしょうか。

「私がAEDを使います」「胸骨圧迫を交代するのであなたがAEDを使ってください」といった具体的コミュニケーションを訓練したほうが有益でしょう。


そしてオートショックAED使用開始時には…


2021年7月の日本でのオートショックAED使用開始に伴い、(一財)救急医療財団が策定した教育用資料では、「あなたはオートショックAEDを使えますか?」という質問が動画内で行われていましたが、従来型のセミオートAEDであろうと、オートショックAEDであろうと、AEDの使用原則である


1.電源を入れる

2.指示に従う(音声・絵表示・文字)


を素直に行うことができれば何ら問題がない話。

十分な訓練を受けていない一般市民は手順を簡略化して難易度を下げて…をこれまで十数年かけて行ってきた中で、なぜ手順を増やすのか。「私はオートショックAEDを使えます!」と自信をもって答えられる方がいったいどれだけいるというのでしょうか。


駅など公の場で善意の市民救助者に聞けば「なにそれ?わからない」と忌避されてしまうでしょうし、事業所内で訓練を受けた者どうしならば質問する必要すらないでしょう。


CPR指導の「幹」は何か?


医学的正しさの追求たる蘇生ガイドライン、そして蘇生ガイドラインを踏まえて教育的視点や社会情勢などを加味した実務書である『救急蘇生法の指針』(この2つの関係性はこちらの記事へ)は救命法の指導者であれば内容をしっかり把握しておきたいもの。日本発祥の救命法講習の指導内容はここがベースとなっているからです。


なお、ここまで触れたAED到着時の質問は、ガイドラインにも指針にも記載されていないもの。あくまで講習提供者等のローカルルール扱いといえます。


  • 蘇生ガイドラインや救急蘇生法の指針での要求

  • 組織全体の方針

  • 組織の小単位(例:XX支部)ごとの方針

  • 実例や、他の組織では採用している方針

  • 市販の書籍に記載されている

  • 指導員個人の見解や、先輩指導者からの言い伝え


普段指導している内容は、このうちどれにあたるものでしょうか?

ガイドラインや救急蘇生法の指針の指針での要求だと思っていたものが、実はとても狭い範囲でのルールだった…ということも少なくありません。


指導者であれば配布された書籍や組織の指導マニュアルだけではなく、源流たる蘇生ガイドラインや救急蘇生法の指針を読んでみてください。

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